想定されたイメージを超える撮影表現 image

想定されたイメージを超える撮影表現 『劇場版 ソードアート・オンライン –オーディナル・スケール–』のエフェクトをより魅力的にした旭プロダクションとCinema 4D

インタビュー・文:峯沢 琢也

アニメーションの撮影会社としては約50年の歴史を誇る老舗中の老舗「旭プロダクション」。フィルムの撮影から発展しデジタル撮影から作画、制作まで広く社内で運用できるよう拡充を続けるアニメーション制作会社。アニメーションの撮影を中心に著名な撮影監督が居並ぶ中、若手のトップランナーとして内外に頭角を現している株式会社旭プロダクション 技術部撮影課ディレクター 脇顯太朗氏にクローズアップした。高校時代にアニメーターの技をコマ送りで研究する事に没頭していた脇氏は、自ら付けたタイミングやエフェクトが直接映像へ反映される「撮影」の仕事に興味を持ち、専門学校を経て2011年に同社に入社、TVアニメ「GODEATER」で撮影監督デビューを経て近年では多くの作品を任される同社ベテラン陣からも信頼される若手撮影監督の一人である。

「アニメーションの撮影に携わってから10年弱、撮影の表現手法のトレンドを意識しつつ他作品との差異を追求し、自分らしく且つ一歩先を行くようなオリジナルの表現を日々模索しています。実作業では提案型で監督や他のセクションと協調するように心がけていますね。専門学校時代にComposition Inc.の緒方達郎氏のTIPS動画でCinema4Dの存在を知り、当時リリース直後だった学生版を使用したりもしていましたが、会社に入ってからはひたすらAfter Effectsメインでした。仕事を初めて数年経ってから、煙・破片・水しぶきなどのエフェクトをAfter Effectsと3DCGを絡めて表現してみたくなり、その時先輩の撮影監督である中西康祐氏が3ds Maxを使用して流体などの表現を開発しているのを見て対抗意識に燃えてしまいまして(笑)それなら自分は学生の時に使っていたCinema 4Dで勝負だ!みたいな形で引っ張り出してきた訳です。ただ勿論費用対効果もありますので会社的にもメリットがあるように中長期的な計画と熱意をぶつけた結果で導入してもらいました。」

監督が100求めている演出に対して120の結果を創造し、監督のイメージにプラスになる表現を常に模索・提案するよう心がけており、その上で3DCG的な表現も必要になる場合にはCinema 4Dを使ってきたと言う脇氏。同社システム班チーフの江畑氏は、年次契約もちゃんと明記されているCinema 4Dのシステム側として導入し易さや、After Effectsとの連携が取りやすい事による撮影会社としてメリット、最終的な画面としてのクオリティも含め、脇氏へのCinema 4Dのアサインは大成功と評し、費用対効果としては軽くペイしている状態なので今後は本人と相談しつつ、ワークフローの拡充に対応したいとの事だった。

脇氏が撮影監督を担当した『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』では、背景美術の上に存在する作画のキャラクターの「存在感」を際立たせる為にCinema4Dが一役買っている。「ちゃんとその空間にキャラが生きて存在しているいる」という事がしっかり伝わるように、キャラと美術が接する部分・接地している場面ではエフェクト作画だけでなく、CGの煙や破片等を追加して画面や状況に、より説得力をも持たせる努力をしている。ただ、脇氏のこだわりとしてカットやシーンごとにあえて処理が均一にならないよう、その時の作画のテンションに合わせて極力アナログな”人の温度を感じる撮影”を目指している。その事から既存・市販の実写素材等は一切使わず、必要な素材があれば自分で装置を作ってカメラで撮影したり、自ら描いたものを素材にしたりもするとの事だ。

煙の表現に関してはCinema 4DプラグインのTurbulenceFDを使用し、パーティクルに関してはX-ParticlesとAfter EffectsのParticularを混ぜて表現している。「セルで描かれた煙の上にCGで書き出した煙素材を乗せる事で、アニメ作画独自のケレン味あるエフェクトであっても、より現実感の出るものに昇華させています」と脇氏も語る。例えばCinema 4Dで作成したエフェクトをカット尺よりも長めに出力、その素材を作画のタイミングに合わせて・時にはずらしてタイムリマップで緩急をつける、こういった合わせ技を駆使する事でシミュレーションしただけでなく「頭の中にある格好良い・気持ちの良い表現の具現化」を追求している。

エフェクトを適用される前の作画と背景を単純に合成したもの。エフェクト追加後の画面と比較するとそのディテールの追加はさることながら全体の質感の馴染みが格段に良くなっているのはおわかりだろう。作画素材に関してはシルエットは自由だが奥行き感のあるボリュームを表現するのはなかなか難しい、そこのディテールを上げる事で背景美術との馴染み感も上がり統一感のある画面に仕上がる。

撮影後の画作りには背景のディテールや作画の細かさに合わせて3DCGの素材を加える事でリッチにディテールを追加している。TurbulenceFD等による煙と炎やMoGraphによる瓦礫などCinema 4Dで作成したものをベースにして作画素材になじませつつAfter Effectsで更に効果を加えて合成している。単純に作画を見せる事を優先して作業するカットもあるが、このカットでは特に溶岩的な鉄料と恐怖感を表現する演出的な方向を重視しており、particleなどの細かい粒子を含めてより現実味のある処理を目指した結果が伺える。

カガチ・ザ・サムライロードとの戦いの作画、エフェクトを加える前の画像になる。マスク素材を発光させたり、背景とキャラクターとのディテールの馴染み感を加えたり、煙を加えた事による前後の奥行き感の追加…etc.と撮影処理としてまた素材の追加として煙などのエフェクトを更に効果として乗せていく事でより重厚な画に仕上げていく。

カガチ・ザ・サムライロードとの戦いのカット。こちらのカットでもTurbulenceFDによる煙が合成されている。煙の動きは作画の2Dのキャラクターの動きに合わせて整合性が取れるようにシュミレーションされている。特に奥行き感、回り込んだ空気の動き、地面を這うような部分での接地感、様々な要素をほどよく混ぜつつ描いている。

次にカガチへ放ったヘビがオブジェクトを破壊して行くこのカット。静止画では分かり辛いが、動画で見ると作画だけでも迫力のあるアニメーションになっている。take1の撮影チェック後に「もう少し派手にしてほしい」という伊藤監督の要望により、作画で描かれた煙の素材に加え、撮影処理として地面を這うような土煙や壊れた瓦礫などが合成された。ここに更に素材を重ね、効果を加える事で全体的な情報量をアップし、作画と撮影処理でのエフェクトを混ぜる事で違和感なく仕上げていく。

実際に撮影処理による煙や破片が追加された状態。監督の要望を汲みつつ、より迫力あるカットに仕上がっている。平面のベタ塗り素材で構成されている作画の煙の素材をいくらぼかしてもボリューム感を出す事は限界がある、そこでCinema 4DでTurbulenceFDを使用し体積感のある煙などを加える事で、また細かい瓦礫に関してもシミュレーションを使用し効率よくCGの素材を織り交ぜる事で効率よくディテールをアップを図れている。特に煙に関してはボリューム感が倍加されていることがよくわかるだろう。

エフェクト適用前のキリトの作画を比較として掲載しておく。作画のマスク素材は撮影処理を施される事が前提なのでベタ塗りになっておりキャラクターとレイアウト上で空いている空間にも特に距離感は感じない。ここにX-Particlesでの粒子が追加されることで手前と奥の背景との間に奥行き感が生まれ、視線を誘導するように光跡が描かれる事で、ディテールをアップするだけでなく全てが平面の素材なはずなのにそこに現実の空気感をあたかも感じるかのような効果を与えられている事がわかる。「動きの効果にシミュレーションは使用していても『頭の中で考えたもっともらしいがケレン味のあるカッコいい効果』を目指しています」と同氏は語ってくれた。

キリトの動きにあわせて、X-Particlesによるオーラや粒子が合成され、加えて作画素材をグロウ加工する事でリッチなエフェクトカットになっている。このような粒子の動きを全部作画で補うことも不可能ではないが膨大な作業量になってしまう、3DCGのソフトを使用する事で撮影処理として効率的に画作りに効果を加える事が可能になっており、常に挑戦的に表現を追求する事で画面全体のイメージをがらりと変える事もできる、そういった意味で撮影監督の腕の見せ所と言っても良いだろう。

「他作品で演出やディレクションを任されている案件もあるので、そういう場合にはモーショングラフィックスも含めて積極的にCinema4Dを使用して色々試すようにしています。Cinema 4Dは標準のフィジカルレンダラーだけでもかなり綺麗にフォトリアルなイメージを作成出来ますが、ボタンひとつで簡単に出来てしまう―というのは、考えることが格段に減る反面で逆に怖くもあって「考えなくても出来てしまう」と言う事を意味しています。全てが便利になり、考えることを怠ってしまうと、新しい映像・表現から遠のいてしまう気がしているので、なるべくインスタントな表現に頼らず、テクノロジーに飲まれないよう・ソフトウェアの技術だけが先に行ってしまわないように気をつけてます。幸いにもCinema 4DはWEB上にTIPSが多くあり、まだまだ勉強出来る事が沢山あると感じているので、これからも色々楽しみです。」

株式会社 旭プロダクション

http://asahi-pro.co.jp/

劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール- 公式サイト

http://sao-movie.net/

©2016 川原 礫/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/SAO MOVIE Project