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J.C.STAFF: アニメ背景の効率化と新しい表現への取り組み テレビアニメ1話あたり約300枚の背景画制作を3Dによってどのように効率化したのか。

J.C.STAFFは、主にTV・劇場用アニメーションの制作を手掛けるアニメーション制作会社で、ジャンルを問わないアニメーション作品を、年間を通して数多く制作している。同社の美術部は、20名程のスタッフが在籍し、TVアニメの背景美術の制作を中心に、ゲーム・遊技機・CMなどのアニメ映像の背景美術の業務を幅広く行なっている。基本的にはPhotoshop等の2Dペイントソフトをメインに使用して背景画を描いているが、最近では3DCGソフトを使用する3D背景の作業も増えてきており、MaxonのCinema 4Dなどの3DCGソフトが使用されている。今回、同社美術部サブマネージャーの黒田 友範氏にアニメの背景制作についてお話を伺った。

J.C.STAFF美術部では、ポスターカラー絵の具で画用紙に手描きで背景画を描くことはほとんど無くなってきているという。

「入社時の研修期間に絵の具を使った模写の研修を行うことを除いては、特殊な水彩風イメージカットを絵の具を使って描くことが時折ありますが、基本的にはPhotoshop等の2Dペイントソフトをメインに使用して背景画を描いています。平均すると8~9割くらいは2D背景の作業を行なっています。ただ、最近では3DCGソフトを使用する3D背景の作業も増えてきており、平均して全体の1~2割、作品内容によっては5~6割以上のシーンで3D背景が使用されることもありました」と黒田氏は語る。

最近のTVアニメの背景美術の作業では、限られた期間で高品質の背景画を大量に作成するスピードが求められる。そのため、当初は主に作業の効率化のために3D背景の導入が行われてきた。舞台のセットを組むような感覚で3D空間上に3Dモデルとして背景シーンを作ることで、様々なアングルからの背景画を効率良く高品質に作成できるからだ。

「手描きでは非常に手間のかかるような入り組んだ複雑な空間の表現なども行いやすくなるため、美術設定のアタリとして3Dモデルを作成したり、3DLOと呼ばれるレイアウトの作成に3D背景モデルを活用することが増えてきています。

2012年頃に制作した『劇場版 とある魔術の禁書目録』の背景美術において、3D背景を積極的に活用しはじめました。その中で3DLOの活用により背景美術作業の大幅な効率化が出来ました。更には美術部でも3D背景動画カットの作成を行うなど、それまでは出来なかったような新しい表現にも取り組むことができた経験により、3D背景の導入を一層進めていきたいと考えるようになりました」

3D背景を導入し始めた当初は、他の3Dソフトだけが使われていたという。ハイエンド3Dソフトだったが、TVアニメの背景美術の作業で使うにはやや重たい印象があったため、より軽快に扱えてコストと機能面のバランスの良いCinema 4D Broadcastの導入を決定したという。

「普段は2Dペイントを行なっているスタッフでも比較的すぐに扱えるようになるコンパクトで使いやすいユーザーインターフェースと、背景テクスチャの作成にも使える3Dペイントの機能が標準で搭載されていることが選択の決め手となりました。最初はそれまで使っていた3Dソフトでの作業の補助用ツールと考えて導入したのですが、使い勝手の良さから徐々にCinema4Dでの作業機会が増えていき、Studioも導入し、現在ではCinema4Dの使用率は50%くらいになってきました。

2Dペイントのスタッフが3D背景の作業も行えるように社内でゼロから教育を行なっています。今では半数以上のスタッフが何らかの3D作業を行えるようになりましたが、これにはCinema 4Dの導入による効果が大きいと感じています」

Cinema 4Dは、美術部で幅広く使われており、美術設定の作成の際には、おおまかな形状や空間のみのラフモデルを作成し、Sketch and Toonの機能などで輪郭線の線画画像などをレンダリングして、設定画の下書き用に使用することが多い。

基本的にはアニメの背景美術は静止画の背景画の作成がメインだ。基本の作業工程としては、作成した3D背景モデルシーンデータに作画レイアウト画像を読込み、そのレイアウト画像にパースや構図を合わせてレンダリングした画像を、Photoshopで細部をレタッチして背景画として一枚一枚仕上げる。

3D背景動画カットなども作成するシーンの場合は、3DLO用背景モデルを更に作り込み、テクスチャ、マテリアル、ライティング、レンダリングの設定なども一通り調整してシーンを仕上げていくのだ。

「アニメの3D背景では、美術がライティング情報なども含めて描きこんだテクスチャを作成し、美術が描いたテクスチャそのままの見た目になるように使用することも多いです。ただその場合はパース変化以外の3D表現の利点が活かしづらいため、より汎用的に活用できるようにマテリアルによる質感設定やライティングを活かした絵作りにも取り組んでいます。Cinema4Dは反射や屈折の表現が調整しやすくレンダリングも高速なので、トライアンドエラーによる最終的なルックの作り込みがしやすいと感じています。レンダリングには標準のレンダラーを使用することが多いです。

シーン内容にもよりますが、作業のスピードを重視してなるべく煩雑にならないように最小限の要素分けで作業するように心掛けています。レタッチ時の素材として、オブジェクトバッファによるマスクと、発光、AO、法線、デプスなどをマルチパスとして出すことが多いです。あとはキャラクターの手前に来る「BOOK」と呼ばれるパーツごとに分けたり、レタッチ作業のしやすさを考えてパーツ毎に分けてレンダリングしています」

TVアニメでは1話あたり約300枚の背景画が作成される。1カット毎に異なるレイアウトに合わせて異なるカメラアングルからの絵が必要なため、アタリとなるレイアウト画像の読み込み作業と、複数のカメラ設定からのレンダリングの作業が大量に発生する。キャラクターの手前に来る「BOOK」分けのためのパーツ毎の書き出し作業も煩雑になりがちだ。

「以前はすべて手作業で設定を切り替えてレンダリングを行っていましたが、最近ようやくテイクシステムを上手く活用できるようになってきたので、だいぶレンダリング時の作業負担が軽減されました。また、レイアウト画像の読み込み作業も、CineversityのCV_Importプラグインを使うことで簡単に行えるようになりました。

テクスチャの作成にはBodyPaintの3Dペイント機能を使用することがあります。比較的Photoshopに近いUIで、ブラシの挙動も似ているので、親しみやすさを感じています。ただ現状ではUIのカスタマイズ性やビューポートの表示機能面などで改善してほしいと感じるところも多いので、今後のバージョンアップに期待しています。

クローナーを中心としたMoGraphの機能が直感的に扱いやすいため、一番使用頻度が高いです。背景空間の作成では、柱や机などを等間隔に並べたりランダムに配置したりといった作業が多いため、配置用のツールとして一番よく使用しています。

スプラインやブールなどの機能も含めて、全体的にUIやレスポンスが直感的で扱いやすいので、ツールの習得にもあまり時間がかからない点に運用上のメリットを感じています。

あとCinema4Dは起動が速く、Photoshopの起動と同じような感覚で扱えるところも快適でとても良いと感じています。2Dペイント作業をしながらちょっとした3D作業を行いたいときに素早く立ち上がってくれるので、ストレスなく作業に入れています」

J.C.STAFF美術部で背景美術を担当しているTVアニメ「カードファイト!! ヴァンガードG NEXT」の作業においては、Cinema4Dをメインの3Dツールとして使用している。同作品の撮影工程を担当している株式会社XEBEC撮影部でもCinema4Dを使用している。「XEBEC撮影部さんがCinema4Dで作成した3DLOのカットのカメラデータを直接頂いて、J.C.STAFF美術部で背景作業に活用するという他社間での連携をスムーズに行うことが出来ました」

また、最近の試みとして、主にゲーム業界の背景アーティストの方たちの制作手法を参考に、より多様な3D背景の作業を担っていけるよう、ZBrushやSubstance Painterや3D-Coatなどのツールの導入に取り組んでいるという。

「背景美術のスタッフは元々ペンタブレットを使用して絵を描いてきましたので、スカルプトや3Dペイントのツールとは親和性があるのではと考えています。

最近特に注目しているのは、UnityやUnreal Engineなどのゲームエンジンです。TVアニメ「ヘヴィーオブジェクト」やTVアニメ「スクールガールストライカーズ」では、背景美術の一部をUnreal Engine 4を活用して作成する試みを行いました。Cinema4Dで作成した背景アセットと別の3Dソフトで作成したカメラデータをUE4に読み込み、シーケンサーで書き出してAfter Effectsでコンポジットを行って完成させた背景動画カットなどもありました。物量のある背景シーンでもリアルタイムに非常にリアルな描画が行なわれることに驚いています。将来的にはVRコンテンツのようなリアルタイムでアニメの背景表現を行うような仕事も増えていくのではと想像しています。我々のような元々はアナログな制作手法をメインとしてきたアニメの背景美術スタッフにとっては、そういった制作環境の急激な変化に対応していくのは大変な面もありますが、Cinema4Dのような扱いやすい3Dツールの存在が助けになっていくのではと感じています。

ただ、背景美術を作成するためのツールが色々と変わったとしても、アニメの背景美術として表現していくものには変わりはないと考えています。キャラクターが芝居をするための空間を作り、作品の世界観や演出イメージをそこに表現していくという、アニメの背景美術の基本的な表現技術の向上に努めつつ、3D背景を用いた新しい背景美術の制作手法にも取り組んでいきたいです。」

背景制作にCinema 4Dが使われた作品

「スクールガールストライカーズ Animation Channel」© SQUARE ENIX・スクールガールストライカーズ製作委員
http://sgs-anime.com/

「探偵歌劇 ミルキィホームズ TD」©ミルキィTD製作委員会
http://milky-holmes.com/anime/td/

「カードファイト!! ヴァンガードG NEXT」©Project Vanguard G 2016/TV Tokyo
http://www.tv-tokyo.co.jp/anime/cf-vanguard-g2/

「ヘヴィーオブジェクト」© 2015 鎌池和馬/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/PROJECT HO
http://heavyobject.net/

J.C.STAFF Webサイト

http://www.jcstaff.co.jp/