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約束のネバーランド 標準が最も強力!映画『約束のネバーランド』CG制作におけるCinema 4D活用法

大人気アニメ『約束のネバーランド』(白井カイウ原作、出水ぽすか作画。集英社『週刊少年ジャンプ』で連載、以下『ネバーランド』)が2020年12月、実写映画化された。本作の3DCG制作にCinema 4D(以下C4D)が使われている。

3DCGで創造された3メートルもの怪物が、迫力のある足音と共に現れ、圧倒的な恐怖感を鑑賞者にもたらすシーンは圧巻だ。鬼の他にも背景などあらゆるところにC4Dが活用されている。

その制作の経緯を、本作で3DCG制作を担当したクリエイティブ集団、「khaki」に話を聞いた。

横原: 横原大和です。『ネバーランド』では、キャラクターのスーパーバイザーという形で、主にキャラクター周りや、それにまつわるワークフローやチェックを担当しました。

横原: はい。テクスチャーも一通り全部作りました。また、ライティング系も一部を担当しています。

宮野: 宮野泰樹です。担当は鬼です。コンセプトメイキングから、実際に映画で使われたモデルのモデリングを担当しています。

田崎: 田崎陽太です。今回、主に背景周りのスーパーバイザーを担当しました。メインは後半の崖のシーケンスで、CGディレクターとしてコンセプトなどを台湾のチームとやり取りをしています。

仁後: 仁後雄理と申します。担当は、登場人物に刺さっている花のレイアウトと、配置と、ライティング合わせです。モデリングされたオブジェクトを実際のシーンに取り込んで、レイアウトを整えるという作業を担当しました。また、門の中の人と柱の位置を合わせるなど、細かいポイントの微調整も手掛けています。

横原: khakiはフリーランスの集まりというかたちで、2012年ぐらいから数人で活動していました。2016年に法人化して、メンバーも増やしました。現在在籍しているのは15人ぐらいで、CG、オンライン、コンポジットのチームがいます。実際にC4Dを使っているのは8人ぐらいですね。元々はCM、ミュージックビデオ、ライブ映像、イベント等の映像を手がけていたんですが、近年は映画やVRなどのジャンルにもチャレンジさせてもらっています。

横原: そもそも、khakiのメンバーは元々C4Dをずっと使っていたんです。ですから、始めた時から今もずっと、メインツールはC4Dです。

横原: C4Dってゼネラリスト向きなんですよね。というのも、一人で完結できる点が良くて。フリーランス時代から愛用していたんです。それがバージョンを重ねるごとにどんどん使いやすくなっていって、近年手掛けているような大規模なプロジェクトや、凝ったものが作れるようになってきた。だから、モーショングラフィックとか背景だけではなく『ネバーランド』のような映画の背景もできるので、C4Dをメインツールにする機会はどんどん増えています。

横原: そうですね。背景のコンセプトづくりから含めて制作することが多いです。『ネバーランド』でいえば、鬼のコンセプトデザインからモデリングをして、最終まで作り上げるという工程まで担っています。

khakiで担当したメンバーも、25~30歳ぐらいの若手中心なんです。僕らシニアチームはサポートとして、鬼が関わってくるようなシーンや、門の中の基礎の部分などを担当しました。

横原: 気づかなかった、というのは、映画としては良いことなので、VFX担当としてありがたいです。実は門や柱のほか、ハウスもCGで足しているんです。これは見てもわからないと思います。門はC4Dで作っていて、レンダリングはRedshiftを使っています。門の中も、セットに足すかたちでCGを多用しています。というのも、予算の関係上、セットを一階部分ぐらいしか組めなかったので、足りない分をC4Dで補完しているんです。

横原: 鬼自体のワークフローとしては、基本的にC4Dをハブにして、モデリング自体は、SculptrisとZBrushで行い、C4Dにインポートしています。ライティングもC4D上で。ペイントはマリンやSubstance Painterです。それをC4Dに返して、Redshiftで早い段階からルックを見ながら進めました。リグとアニメーションはアニメーターに任せて、それをAlembicで返してもらって、最終的な修正は自分で行いました。服のシミュレーションにはHoudiniを使っていて、最終的には全部C4Dに入れています。

横原: khakiでは以前からAlembicを中心にしていて、作業して頂いたものをC4Dに戻して微調整するというフローを行っていたので、あまり心配することなく進められました。

横原: Alembicで選択範囲タグが来るので大丈夫なんです。元々こちらで完全にUVなど選択範囲を分けているので。『ネバーランド』の場合は、身体と、服と、お面、というようにパーツを分けています。眼球も別パーツです。RedshiftだったらUDIMで行けるので、それぞれUDIMにして。映画用ですから、かなりの枚数を使っています。

横原: 僕らがC4Dを使い慣れているというのが一番の理由ですが、シーンを配置したり、ライティングをするのにも使いやすいんですよ。そういうちょっとしたことですが、C4Dで効率的に各カットをやっていけたるのは助かりますね。やっぱりタグが見えているので、階層と選択範囲が使いやすいんです。

横原: Redshiftはレンダリングが早いんですよ。映画の案件なので、物量が多いし、重いレンダラーだと間に合わないという事情がありました。重いレンダラーだと、ルックを見るだけですごく時間がかかってしまいますから。レンダリングにはTeam Renderを使用しました。GPUのレンダーサーバーを15台ぐらい使ったんですが、それでもデータが大きすぎてアウトオブコアでメモリが溢れちゃうこともあって。

仁後: テクスチャーが4Kだったり、ジオメトリー自体がすごく多いんですよ。一カットで、レンダリングする前は100ギガぐらいあるものもあしましたし。後半になるにつれて、どんどん重くなっていくので、本当に神経質になって。レンダーキューを投げるまでに、何度もチェックして家に帰るんですが、帰っても気になって仕方なくて(笑)。

横原: それでも、Alembicにするとバグが出ないのは助かりました。

横原: この鬼1体で、テクスチャーも8K、4K基準なんですが、4Kでも身体だけで20枚くらいあります。そして、それぞれ全チャンネル20枚ほどあるので。それが回るのはRedshiftぐらいなんです。あと、今回、NUKEもコンポジットに使っているんですが、Redshiftはプロダクション用のレンダラーなので、ちゃんとAOVのパスが出来てすごく助かりました。

宮野: オリジナルを出しすぎないようにするというか、ファンの皆さんに違和感を与えないようなデザインを心がけました。基本的には原作をベースにして、CGに落とし込んだからより迫力が出たとか、もっと怖くなったとか、そういう迫力が出したかったんです。ですから、自分の個性というよりも、原作に忠実に、だけどさらに迫力が出るようにということを心がけました。

宮野: 後者ですね。原作やいろいろな資料を元に、ZBrushで彫るところから始めました。実写にしたらこういうパーツが参考になるかな、というリファレンスを集めて、それを眺めながらひたすら彫っていったんです。

宮野: 質感に関しては、Mariというソフトを使いました。人の肌をペタペタ塗っていくような感じで作業が進められるんです。ぬめっとした質感に関しては、肌の参考になりそうなリファレンスを集めて、その中で「気持ち悪さ」を調整したんです。気持ち悪くしすぎてしまうと、鑑賞者の年齢指定にも影響するんですよ。実はこれ、仮面を外したところの顔も作っていたんです。結局ボツになって映画では使われなかったんですが、ここで供養します。

宮野: ヘアーは標準のものを使っています。ヘアーも今回初めてだったので、教えてもらいながら作りました。今までやった経験を総動員して、応用しながら試行錯誤して。自分でも正解がわからないまま、とにかく作るしかなかったという。

横原: はい。もちろん、例えば毛をどうやって生やすのかなど、わからないところは随時相談してもらって、一つ一つわかる範囲で教えながら教えました。宮野はこれまでにはCMのキャラクターなどは手掛けたことがありましたが、ここまで作り込んだキャラクターを手掛けるのは初めてだったんですよ。

どうしたらもうちょっとリアルになるのか、というラインは悩んでいましたね。Redshiftを熟知していなくてはならないし、各チャンネルをしっかり作らなければならなかったので。でも、Redshiftのビューが速いので、ある程度見ながら差し替えたりすることができて助かりました。

横原: コンポジットの部分も含めると、バージョン85や94まで行っているものもありますね。どうしても難しいカットは多くなってしまいます。

横原: 半年ぐらいですね。撮影は19年夏で、撮影が終わって19年の秋から冬ぐらいにコンセプトデザインを初めて、20年の1月~7月ぐらいに制作しました。その後も、かなり公開ギリギリまで調整しています。

横原: アニメーションなどは外注していますし、僕たちはC4Dにすごく慣れているので、迷うところは少ないんですよ。ですから、ワークフロー自体は素早くやってしまって、あとはどうクオリティを上げるか、いかに監督のオーダーに応えるか、ということに注力しました。

横原: はい。例えば崖のシーンでは、田崎がリファレンスを作って、制作は台湾のSolvfxという会社にお願いして、C4DとRedshiftで作っていただいて、khakiでコンポジットしています。崖のところは、やっぱりリアリティが結構重要ですよね。だから、あまりにもCGっぽかったら、ちょっと怖さがなくなっちゃうので気を使いました。

田崎: もとはスタジオで手前の塀だけセットを作って、後ろをブルーバックで撮影したものです。そこに実際のロケで撮影した森の人物たちの素材を重ねて、撮影したものを組み合わせて、C4Dで拡張しました。森に関しては後ろの木の一部だけを使って、ほぼフルCGで置き換えているという感じです。

田崎: 現実の木だったら、ちょっと風で揺れていたりするじゃないですか。今回はリアリティを追求するということで、Speed Treeの木を使って、風を入れる設定をして、リアルに見せる工夫をしています。また、夜のライティングをすることによって、ごまかせる部分もあるので、そういうシーンはあえて作り込まずにコストを減らすことを考えました。

田崎: そこでC4Dが役に立ったんです。配置系のツールが優秀で、MoGraphを始め、スプラインラップなども使いました。基本的に、手前のよく見えるところは丁寧に手で配置して、奥の方はMoGraphとランダムエフェクタを使って配置しています。草については、リアルに生やそうとすると、何十万本という数になるので、それはC4Dのマトリックスの配置を、Redshiftタグでスキャッタして行いました。すごく軽いんです。実際に表示させると重くなるので、レンダービューを見ながら確認して。

他には、崖や塀もC4Dだから助けられた所があって。実は崖や塀も直線ではなくて、ちょっとアールを描いているんですが、それもC4Dだとスプラインを引いて、そこにスプラインラップで這わせることが簡単にできるので、かなりやりやすかったです。配置の微調整を後からやるのも簡単でした。

仁後: はい。門の中のモデルも、結構ポリゴン数が多いんです。ワークフローとしては、横原さんにベースのモデリングをC4Dでポリゴンで作ってもらって、ZBrushに持ち込んでディテールを入れて頂いたものをC4Dに戻す、という流れです。そこから、C4Dの中に、トラッキングするカメラを複数持ち込みました。つまり、各カットのカメラが全部この中に入っているので、26ものカメラがある状態だったんです。各カットのカメラを、一つのシーンで入れてしまったんですね。

仁後: 例えばこのカットだったらこのアングルで撮っている、というように指定されたデータを、トラッキングを指定して、それぞれ一つのシーンに入れていったんです。ただ、一つのシーンにカメラを入れて、レンダリングするだけならすごく楽なんですが、カットによっては微妙に頂いたモデルと柱の位置がAfter Effectsで合わせてみると違ったりするんですよね。そこで、一回レンダリングした後に、逐一モデルの位置をちょっとずらして、カメラが動いた時にずれていないかを細かく見ていきました。この作業にはかなり苦労しました。

横原: ライティングも、1カット1カット調整していましたから。

仁後: ライティングに関しては、4割は調整なし、6割は微調整を加えました。今回、C4Dを使って良かったなと思える点は、クローナーとかニュースタンスで、すごく楽に位置の修正ができたことです。すごく助かりました。

横原: 一応、各カットというか、シーンでHDRを撮っていました。ただやっぱりそれだと合わせきれないことも多いので、目合わせでライトの調整が必要だったカットもあったんです。特に鬼に関しては、とにかく見栄えを良くしないといけないので、撮影時のライティングだけでは迫力が足りなくて。そこで宮野、仁後らがライトをいじって、整合性をとりつつも見栄えがするように、C4D上で探りました。

横原: そうですね。元々は小道具の花自体はあったんですが、動きが必要なカットもあったので、花自体をC4D上で差し替えました。さらに小道具の花を釣っているワイヤーを消して、リアルに見えるような加工などもしています。

仁後: 花に関しては、Alembicでモデルを頂いたんです。それがしぼんだ蕾のバージョンと、開いたバージョンの2つで、葉っぱの配置等は僕が担当しました。ですが、実際に頂いたモデルのままでシーンに入れてみると、あまりにも形が丸すぎる花になってしまって。そこで原作を見ると、丸というよりも、ちょっとずれている感じがあるんですよ。そこで、レイアウトを変えて、ライト合わせをやり直しました。パスもたくさん分けました。ライティングでは、ディフューズを出すにおいて、ブルーの環境光のライトとか、オレンジのライトなどのそれぞれを、編集しやすいように調整したんですね。素材として、かなり多く出しています。

仁後: そうしてみると、左から青い光が入って、左奥からオレンジのライトが当たるようになって、すごく雰囲気が出たんです。花のレイアウトをバッチリ決めて、かっこよく、全体として良く見えるというルックに落とし込むのにかなり時間を掛けました。

仁後: はい。頂いたデータに付いていたアニメーションを編集して、花も一枚一枚レイアウトを崩していきました。静止画で見ると、形よくまとまっているように見えますが、意外にかなり嘘をついているんですよ。花びらを浮かせたり、はっきり言って横から見るとぐちゃぐちゃなんですけど(笑)。正面で見たときに良く見えるように、粗がバレないように作っています。

横原: 実はプラグイン自体、今回はあまり使っていないんです。C4Dの標準機能にMoGraphとか、Deformer系とか、場合によってはAlembicをちょっと変形するとか、Team Renderも含めて、強力なものが揃っているので。他にはテイクシステムやレイヤー等も使いつつ、基本的にC4Dは標準で十分ですね。また、Redshiftは特に愛用していて、GPUでありながらハイエンドな制作ができる点が良かったです。映画のコンポジットにはスーパーバイザーの方に入ってもらったんですが、普段映画で使われている他のレンダラーと同じように問題なく使えました。オーダーですとか、カラーマネジメントも標準で搭載されていますから。ですから、映画に携わるのは初めてでしたが、CMなど、通常の業務の延長線上で出来ました。標準が強力なので、問題ないんですよ。

仁後: MoGraphは本当に優秀ですね。特に花の調整をするときに、Alembicのモデルの茎をもうちょっと細くしたり、下から上に広がるようにしたり、そういう作業では直接Alembicをいじるよりも、MoGraphでTaperを使ったり、ベンドで曲げるほうが簡単でした。また、花びらをクローナーで複製して、ランダムエフェクトにするというのも簡単で。やっぱり、C4D上でエフェクト・数値でフィールドを決めてモデルをいじれたので、そこは本当に役に立ちました。

田崎: C4Dはモーショングラフィックスのツールという印象が強いと思うんですが、それだけではなく、MoGraphやデフォーマがかなり強力なので、シーンの制作はもちろん、オブジェクトマネージャの柔軟性も頼りにしています。シーンを手早く作れる上に、後からの変更も容易なので、特に背景を作るときには、スピードと柔軟性が得られるのが利点です。マテリアルもビジュアル的にわかりやすいので、感覚的に操作できるのも良いです。差し替えも一瞬でできますし。そういう試行錯誤が3DCGには必要なので、C4Dは試行錯誤のやりやすさや、柔軟性が明らかに優れていると思います。

横原: khakiのような小規模な会社だと、映画のような大規模な案件でも、デザインから完成まで、なるべく少人数でやりたいんです。C4DやRedshiftなら、少人数で初期のイメージから最後のアウトプットまでを素早く出来るので、そこがありがたいですね。一人である程度の範囲を完結しつつ、複数人でもできるのが強みだと想います。そこから作り込んでいって、例え大きな修正があっても、ビジュアルが見やすいので直しやすい。

仁後はC4Dを初めてまた2年位ですが、C4Dはかなり使いこなせています。宮野も本職はモデラーですが、C4Dでのシーンやライティングもすぐ習得できました。ですから、少数で、デザインからフィニッシュまで行ってしまう組織にはMaxon製品はすごくおすすめだと思います。アウトプットは最速ですから。

横原: 特に3DCGは相当ツール自体が難しいんですが、色々使ってみて、C4Dが一番習得の速いツールでした。モーショングラフィックスでも、背景も、キャラクターも一人で作ることができるので、ぜひ一度使って見て欲しいです。


ーーありがとうございました。

Author

齋藤あきこライター・編集者