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音楽をベースにした美学でモーションデザインを再定義 Set Angle、Maxon One の無限のポテンシャルを引き立てる鮮やかなオーディオビジュアル・エクスペリエンスを制作。

パンチの効いた2D・3Dグラフィックスとジャジーなヒップホップビートを特徴とするSet Angleは、独自のソウルフルなスタイルでアニメーションおよびモーションデザインコンテンツを手がけています。Set Angleの創設者でクリエイティブディレクターのImsety Taylor氏(通称Imsety)は、アーティストでありテクノロジスト、そして音楽への情熱とビートメイキングの才能を兼ね備えたモーションデザイナーです。ジャズ、ヒップホップ、EDM、レゲエに影響を受けたImsety氏の作品は、異なる時代の視覚的および音楽的スタイルを融合させ、力強いグラフィックと鮮やかな色彩をソウルフルなリズムに乗せて展開します。 

Imsety氏は、Maxon Oneによって自身の創造力が進化したと語り、Cinema 4D、Redshift、Red Giant、Universeを用いて多層的なコンセプトを具現化し、アニメーションや合成にはAfter Effectsを使用しています。 

イムセティの作品に目を奪われた Maxon は、2025 年 4 月の Maxon One のリリース向けプロモーションの制作を Set Angle に依頼しました。そのリリースに先立ち、Imsety氏に創作のインスピレーション、プロジェクト、使用ツール、技法について語ってもらいました。 

イムセティにとってクリエイティビティを発揮することは常に遊びでした。まだ幼い頃から、モーションデザインや音楽、ビートメイキングこそが自分の道だと自覚していました。思春期の頃からデジタルコンテンツクリエイターとして制作に取り組んできたイムセティは、人を魅了し刺激を与えるコンテンツを作ることこそ自分が目指すべき道だとわかっていました。2019 年アトランタで開催された 3D + Motion Design Show で Maxon のマティアス・オモトラ (Mathias Omotola) との出会いがきっかけとなり、イムセティはモーションデザインに幅広い可能性があることを知り、もっと大きなビジョンをもちたいと考えるようになりました。熱意とクリエイティブな方向性が形となり、2022 年に始動したデジタルクリエイティブエージェンシー Set Angle が誕生しました。現在、イムセティは個人で制作することはもちろん、ブランドやエージェンシーとのコラボに取り組み、ブランドの動画や商品広告、タイトルシーケンス、イベント用のイマーシブなグラフィック、ミュージックビジュアルなどを手掛けています。自らが企画した人目を引くプロジェクトに加え、Rock The Bells x Ford、Chick-fil-A、Kaiser Permanente といったクライアント向けに制作した作品が Set Angle の評判の向上とチームの成長につながっています。 

イムセティのグラフィックアニメーションの方向性を決める完璧なビートの裏にあるインスピレーションとプロセスについて迫ると、イムセティは、すべてはサウンドトラックから始まると説明してくれました。「音楽を聴いていると、形や色がはっきり見えるんです。共感覚のようなものです。どうやったら曲になるかを伝えるコード化された言語が頭の中で提供される感覚です」とイムセティは言います。この音楽を可視化する方法を取り入れ、イムセティはビジュアルの方向性とトラックとコンテンツのコレオグラフィーを決めるトラックを作ることから始めます。この作業でイムセティは、鉛筆で簡単にラフスケッチを描き、それから After Effects でラフフローを作っていきます。 

その後、 Cinema 4D でプリミティブ図形やさまざまなアングルやパースペクティブ、マテリアルやシェーダを使って遊ぶ感覚で、流れに乗って実験的なワークフローを始めます。「Sketch and Toon」シェーダを使って遊ぶのがとても好きなんです。Redshift でライティング効果を使ってただただ遊んでいることさえあります」とイムセティは言います。自分のビジョンと一致するスタイルフレーム一式とテストアニメーションができたら、それらをつなぎ合わせながら、改良していきます。 

自分のスタイルのクリエイティブなエネルギーとトーンを形作ってきたプロジェクトとツールを詳細に分析し、イムセティは Beeple Studios のためにイマーシブなミュージックビジュアル「The Breakdown」を制作する機会に挑戦しています。 

ギッブス美術館とのコラボイベント「Art Charleston」向けにデジタルアーティストのマイク・ウィンケルマン (Mike Winklemann)―—通称 Beeple―—より依頼を受け制作したイムセティのミュージックビジュアルは、Beeple Studio の 180 度のイマーシブなウォールスクリーンにプロジェクトマッピングで投影されました。抽象的な性質であるがゆえに、このプロジェクトは「魔法のおもちゃ箱」(イムセティが Maxon One に説明する際に使用した表現) を実験するには理想的な機会となりました。 

ダイナミックなエレメントを作る斬新かつ効果的な方法を模索していたイムセティは、Cinema 4D の MoGraph エフェクタを使った実験を行いました。その結果、グラフィックイコライザーを想起させるスタックに変化するダイナミックなシティスケープの制作に理想的だということがわかりました。ターンテーブルにソフトグロウエフェクトを適用し、もう少し 3D グラフィックを追加したかったイムセティは、Red Giant の Magic Bullet Looks を使うことにしました。結果として生まれたパーティー感は、イムセティにとって衝撃でした。「今は、設計時にはおそらく想定されていなかったユニークでおもしろい方法で Magic Bullet を使っています。ライブアクション映像には使っていないんです。2D コンポジション向けに、視覚的におもしろいカラーや外観を制作するために使っています」とイムセティは言います。 

ミックステーププロデューサーで DJ としても活躍する J.PERIOD へのビジュアルトリビュート「ABSTRACT」でマルチレイヤー・グラフィックを制作したプロセスは、新たなテクニックを模索するもうひとつの絶好の機会となりました。事実イムセティは、この時に見出したプロセスを今も使い続けています。 

「The [Abstract] Best of Q-Tip」のビート、リズム、サンプルアートからインスピレーションを得て制作した個人的なプロジェクトで、イムセティはバンプマッピングしたグレインマテリアルと Sketch & Toon シェーダを使って実験を行い、2D と 3D グラフィック向けの粒度の粗いグラフィックを改良しました。J.PERIOD のサウンドトラックのサンプルに合わせてアニメーション化した作品は、「レジェンド」と呼ばれるプロデューサー兼 DJ 本人の目に留まり、J.PERIOD によって SNS でシェアされました。 

Set Angle のタグライン「ありきたりなことを驚きに変える」を演出するためにデザインされた 2 つの自己 PR 作品は、UI のディテールに輝きとエレガンスを追加し、iPhone の計算機と時計アプリのルックを魅力的に表現した映像作品となっています。 

After Effects のアニメーションにスマートフォンを組み込むために Cineware を使用する手法は見事に機能しました。しかしながら、イムセティはポップな印象をプラスするため、もうすこし 3D が必要だと考えていました。「Cinema 4D でシェーディング後、スマートフォンのマスクとして Magic Bullet Looks を試しました。おもしろいエフェクトにするため色とコントラストを調整するところから始めました。その過程でアップのショットでキラキラした輪郭を強調するリムライトのようなエフェクトを見つけたんです」とイムセティは言います。 

Maxon One の 4 月のプロモに戻り、イムセティは自分の実験的なアプローチによって、それぞれのツールの一番良い所を引き出したいと考えています。コラボするためにアベンジャーズのようなアーティストチームを編成したことで、各チームメンバーからイムセティのレパートリーを補完する斬新な考え方やテクニックが出されています。「みんなで選んだサウンドトラックのおかげで、ものすごく効率良く「ドンピシャ」なものが作り上げられています。何度も何度も繰り返し観たくなる満足度の高い作品を作れていると思っています」 

Maxon One を使い始めて 5 年。自分のスタイルや声を磨き、進化させるための無限の方法を提供してくれるクリエイティビティを発揮する作業は今後もイムセティにとって遊びであり続けるのは間違いないでしょう。 


Helena Swahn(ロンドン在住ライター)